超高速伝播現象の観測 ---
何が重要なのか?
このページでは、今回の観測がなぜ重要なのかを説明します。
太陽フレアにおいて高エネルギー電子の観測がどうして重要なのか?
太陽フレアは、わが太陽系でみられる最大級の爆発現象です。
そのエネルギー源は、太陽表面に現れた磁場であることは
すでにわかっています。
磁場エネルギーが爆発的に消費されるのがフレアという現象なのですが、
そのエネルギーはおおざっぱにいって、半分が
プラズマの加熱(もともと数百万度のものが数千万度から数億度)に、
残りが粒子(電子や陽子)の加速(平均的には静止していたものが、
光の速度近くまで)へと
一気に消費されます。加熱へのエネルギー消費過程については、
かなりの部分が最近の宇宙飛翔体観測(たとえば宇宙科学研究所の
「ようこう」衛星など)によって解明されてきました。いっぽう、
粒子加速についてはまだじゅうぶんな解明にはいたっていません。
これを解明しなければ、わたしたちは、太陽系最大級の爆発現象を
理解したとはいえないのです。
太陽フレアの高エネルギー電子については、
これまでどういうことが観測されているのか?
光の速さ近くまで加速された高エネルギー電子が存在するであろうことは
これまで、間接的な証拠が数多くあげられていました。太陽フレアに際して、
電波放射の強度が急に明るくなることはそのひとつです。また硬X線
--- X線の中でも波長が短い光でもほぼ同様に明るくなりますが、それも
高エネルギー電子の証拠と思われてきました。ここ20年ほどに
なって宇宙飛翔体があげられるようになると、
実際の画像のようすがとらえられるようになってきました。
下に示した画像はその一例です。
この画像は宇宙科学研究所があげた「ようこう」衛星が撮ったもので、
半円状にみえるのが軟X線(波長の長いX線)で
撮像したもので、その上に硬X線で観測した図を等高線で重ね合わせてあります。
半円状のものが磁力線でできており、その両端は太陽の表面より下に
埋まっているためにループ上に見えています。硬X線の光源は、そのループの
両端にそれぞれと上空とにみられています。このように硬X線光源は、いくつかの
箇所に離ればなれにポツポツと光ることがわかっています。これは、フレアに際して
「どこか」で加速された電子が、密度の高い太陽の表面に、衝突した結果である
と考えられています。
(増田ら 1994)
上のような画像では、残念ながら高エネルギー電子が実際に(高速で)
走っているさまをとらえることができません。なぜなら「衝突してはじめて」
光るからです。しかし中には例外もあります。それが下の図です。
(花岡 1999)
このフレアでも、光源はポツポツと離れた箇所なのですが、光るタイミングに
ほんの少しだけなのですが時間差がありました。この時間差を詳細に調べた結果
どうやらいっぽうの端からもういっぽうの端に電子が走った「らしい」という
ことがわかりました。
というわけでここまでが高エネルギー電子の観測の現状だったわけです。
今回われわれが野辺山電波ヘリオグラフで観測した現象では、このような
「ポツポツ」という光源ではなくて、実際に端から端まで電子が走っている
さまそのものを直接に撮像することに成功したのが新しい点なのです。
どうして野辺山電波ヘリオグラフで観測することができたのか?
野辺山電波ヘリオグラフの最大の「売り」は、その高い時間分解能にあります。
1秒間に10枚もの撮像ができる装置は、太陽の観測装置としては
電波ヘリオグラフだけです。高エネルギーの電子は、およそ光の速度で伝わる
ことが予想されていましたが、そのような現象を撮像するためには、
電波ヘリオグラフ級の時間分解能が必要だったのです。また高エネルギー電子は
硬X線も放射しますが、上の項目でも述べたように、硬X線放射は「ポツポツ」という
空間分布を示します(将来観測装置の感度が上がると変わるかもしれませんが)ので
伝播しているようすを直接とらえるのにはあまり向いていません。
横山 央明
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