太陽フレアシナリオとしての高ベータプラズマ崩壊
柴崎清登(国立天文台野辺山)
高ベータプラズマに満たされたループの頂上付近において、磁力線方向には小さな波数(磁力線の長さ程度の波長)、ループ面に直交する方向(アーケード方向)には大きな波数(短波長)を持つ低周波波動(擾乱)を考える。圧力勾配に起因する荷電粒子のドリフトは電荷の符号により逆方向となり、アーケード方向の短波長波の両端に交互に逆の符号の空間電荷が現れる。この空間電荷が作る電場と元からある磁場によるドリフト(E×B)で波が増長し、不安定性を引き起こす(高ベータプラズマ崩壊)。これが交換型不安定性の物理過程である。この過程で発生する現象は太陽フレアに伴う現象と多くの共通点を有する。以下にそれらの "定性的" な共通点を考察する。
1)初期擾乱:プラズマ擾乱が増長することが不安定性そのものであり、YOHKOH/BCS 等によって観測されているフレア初期の非熱的ドップラー幅の増大を説明することができる。実際には線形領域ではなく、非線型に発達した波動を扱う必要がある。
2)粒子加速:この過程において現れる空間電荷は、アーケード方向には放電できないので、磁力線に沿った方向に放電することになり、下方および上方への粒子加速(直流電場加速)が可能となる。また、両足の同時性、ループ上空のX線源についての説明が可能である。
3)準周期的変動:磁力線方向の擾乱の変位はループの両端でゼロとならなくてはならないので擾乱には周期性が期待される。マイクロ波やX線の強度が準周期的変動を示す理由と考えられる。
4)プラズモイド放出:不安定性が非線型領域まで発達すると、ループ内のプラズマが塊となって外に飛び出す。飛び出した際のまわりの磁力線構造に従って、上空に放出されたり、より大きな磁力線にそって遠方に達する。また、閉じた磁力線に囲まれている場合には、そこに留まる。高温プラズマだけでなく、ループ内の高エネルギー粒子も同様のふるまいが予想される。また、放出のタイミングと1)、2)のピークが一致することが予想される。
5)ループ上面の高温領域:交換型不安定性はループの上面で発生するので、プラズマ擾乱による加熱や加速粒子の熱化により、ループ上面に高温領域が形成される。