野辺山電波ヘリオグラフ よくある質問集


  1. 電波ヘリオグラフと同等あるいはそれを凌駕する性能をもつ 太陽観測用の電波望遠鏡が国外で稼働しているか 
  2. 電波ヘリオグラフのセールスポイント −−−この装置でなくてはできない観測
  3. 既設の観測装置では太陽電波の先端的研究ができないか
  4. 電波ヘリオグラフはどの程度共同利用されるか
  5. 電波ヘリオグラフの学問的寿命は
  6. 干渉計の原理−−−干渉を使って電波の到来方向を測る
  7. なぜ多数(84基)のアンテナを必要とするか
  8. アンテナ配列をなぜT字型とするか
  9. 東西 550m, 南北 220m にわたってアンテナをならべる必要性は


1. 電波ヘリオグラフと同等あるいはそれを凌駕する性能をもつ太陽観測用の電波望遠鏡が国外で稼動しているか。

  太陽大気の爆発現象(フレア)の研究には、解像力のよい電波望遠鏡が不可欠であることは、 すでに10年以上前から言われてきており、いくつかのグループでそのような計画が考えられてき たが、まだ実現には至っていない。

 (例)
・ヨーロッパのcm波ヘリオグラフ
   フランス、ドイツ等を中心に、数秒角の解像力をもつ装置の検討が1970代 中頃からおこなわれてきた。

・オーストラリアのmm波ヘリオグラフ
   国立理工学電波物理研究所で、回転型ヘリオグラフが計画された。

実現に至らなかった理由
前者はアンテナ数を減らす良いアイデアが出されなかった、後者はアイデアは面白かったが回転に伴う振動の影響等技術的問題を解決できなかった。

稼動中または建設中の装置
・VLA(Very Large Array)米国国立電波天文台
宇宙電波観測用の巨大干渉計。一辺約21kmのY字型基線上に27基の大型アンテナ(直 径25m)を配置。銀河の観測などでは、地球回転を利用した超合成法を駆使することにより実質 的にアンテナ数を増やしたことと同じ効果を得る。このことにより、高画質の電波像を得て、素晴 らしい成果をあげているが、太陽フレアのようにはやい変動現象の観測にはこの方法が使えず、ア ンテナ数が不足しているために画質が著しく劣っている。この結果、観測した電波像には大きな構 造が無視され、細かい明暗がことさら強調されることになる。結果の解釈には曖昧さが常に伴い、 明解な結論は出せない。
・シベリア太陽電波望遠鏡
256基のアンテナからなる大型望遠鏡。アンテナ配列法に無駄が多過ぎるため解像力は 約30秒角で電波ヘリオグラフの7ないし8秒角より4から5倍悪い。




2. 電波ヘリオグラフのセールスポイント  −−−− この装置でなくてはできない観測

   
a.活動する太陽の姿を1秒に10コマの超高速撮影ができる。
 == 爆発で作られるエネルギーの高い電子の流れを追跡でき、それによって今まで全く判らなかった粒子の加速領域を特定できる。

b.爆発を起こす黒点の上の磁力線の形状を観測できる。
 == 野辺山太陽電波観測所で開発した自己較正法を採用することによって、従来より1桁以上すぐ れた画質でフレアの電波像を撮影でき、これから磁力線の全貌をつかむことができる。

c.太陽面のどこで爆発が起こっても100%撮影できる。
 望遠鏡の広い視野と高い解像力を同時に達成。前記のVLAでは素子アンテナの口径が 25mあり、アンテナ口径と視野の広さは反比例するため、太陽のごく限られた領域しか一度にみ ることができない。



3. 既設の観測装置では太陽電波の先端的研究ができないか

 ・8cm、3cm電波写真儀(豊川)
太陽全面にわたる大きな大気構造を観測するのに適しており、その分野の研究で成果を上げてきた。 しかし、2次元像の解像力は120秒角であるためフレアの像はボヤケて写る。フレアの研究で要求され る解像力には1桁以上たらない。
 ・17GHz多相関型干渉計(野辺山)
0.8秒に1枚の高速撮影でフレアの研究に活躍してきたが、アンテナが東西方向にしかないた め一次元情報に限られており、南北方向に重なった黒点群を分離・識別でき ない。
 ・160MHz太陽中層大気干渉計(野辺山)
コロナ中層の衝撃波、磁気プラズム雲を観測してきたが、建設以来約20年経過しており、老朽 化が著しく、先端的研究は望めない。
 ・宇宙電波用45m鏡
単一の指向性をもっているため、太陽全面を走査するのに約2.5時間要し、フレアのようには やい(<1秒)変動現象の観測は行うことには不向きである。
 ・宇宙電波用5素子干渉計
地球回転を利用した超合成法の適用を目的に設計された電波干渉計であるから、極めて短い時 間に発生する太陽フレアの観測はできない。




4. 電波ヘリオグラフはどの程度共同利用されるか

国 内
太陽の研究は、電波、光、X線と広い波長域で観測されたデータを総合する段階にきており、光やX線観測を主体とする研究者も当然電波観測データを必要としている。国立天文台のほか、東大理学部、京大理学部などの研究者が利用する。
 また、惑星間空間・地球磁気圈の研究者からも、太陽の影響を調べるためにヘリオグラフデータ利用の要望がだされている。さらに、太陽観測が終了した夜間には宇宙の変動性電波源の観測にも活用される。

国 外
米国、オーストラリア、ヨーロッパ、中国、ブラジル等の太陽電波研究者からもヘリオグラフ利用の要望がだされている(国際会議で紹介している)。とくにようこう衛星との共同観測が有効である。



5. 電波ヘリオグラフの学問的寿命は

 当面する太陽活動極大期には、フレア高エネルギー現象の解明を主要な研究目的とする。特によう こう衛星によるX線との共同観測は、最も重要かつ緊急である。
 電波ヘリオグラフの観測対象は、フレアのほか、活動領域の消長・活動領域間の相互作用、静穏時 の太陽大気構造(コロナホール、フィラメント等)等である。特に後者は、フレアの頻発する極大期 を避けて活動の低い時期に行う方が都合がよい。
 画期的な装置の学問的ライフは、太陽の場合1ないし2サイクル、15年程度である。




6. 干渉計の原理−−−干渉を使って電波の到来方向を測る

 東西方向に距離dだけ離して並べた2つのアンテナ(A,A)で天体からの電波を受ける場 合を考える。2つのアンテナの出力は、同じ長さのケーブルで受信機につなぐ。

 アンテナ基線に直角な方向(θ=0)から入ってくる電波に対しては、AとAの出力は、波 の山と山、谷と谷とが重なるので、相強め合って最大となる。電波の到来方向が垂直から少しずれると AとAに入る電波の経路にXの差ができるので、山と山とは一致せず出力は低下してくる。さらに 到来方向が大きくなって、経路差xが波の波長の半分に等しくなると、AとAとの出力は、山と谷、 谷と山とが重なるので相打ち消し合って受信機出力は0となる。そうして到来方向が大きくなってxが 1波長となると再び出力は最大となる。
このように波と波が重なって強めあったり、打ち消す現象を波の干渉という。
受信機の出力が電波の到来方向に対してどう変化するかを図に示す。アンテナの出力を干渉させるこ とによって、電波の到来方向を測ることができる。つまり、発生位置を分解(解像)して測ることができる。




7. なぜ 多数(84基)のアンテナを必要とするか

 フレア像を写真のような高画質の二次元像として得るためにはアンテナ数を多くする必要があり、 数秒角の解像力を得るためには基線長を長くすることが必要である。それでは性能を落とすことな くどこまでアンテナ数を減らすことができるか?
答え
:思考実験、計算機による数値実験をくり返して到達した結論。
・T字型基線上に、内側ほど密に外側ほど疎にアンテナを並べる多重T型配列が最も効率的である。
・これ以上アンテナを減らすと、性能が急激に低下する限界がフレア観測では76基である。 活動域の高画質の画像を得るためにはアンテナ数をこれより約5割増やす必要がある。
・更に、コロナホール、フィラメント等の低コントラストの大規模構造を観測するためには 84基の2倍程度の数のアンテナが必要である。

   

電波ヘリオグラフに取り入れた創意

   

・上の多重T型配列を考案したこと。
・電波干渉計に最も重要な波の位相較正法として、「実時間自己較正法」<用語説明集参照> を導入したこと(野辺山で開発)。



8. アンテナ配列をなぜT字型とするか

  二次元像を得るためであるが、天体の二次元像を得る電波干渉計のアンテナ配列としては、T字 型のほか、十字型、Y字型  円形、ランダム配列等がある。  T字型:相関値がxーy値交座標で得られる。  十字型:十字型の1/4を省略したのがT字型であり、解像力の点では、十字とT字は同等であり、T 字型が経済的。(シベリア太陽電波望遠鏡(ロシア)は、256基のアンテナを十字型に並べているが、 T字型にすれば192基でよい) Y字型:相関値が直交座標系では得られないので補間が必要である。地球回転を利用した超合成に適している。 円形型:上に同じ。限られた土地を有効利用できる。  T字型を選んだ理由   ・外側ほどアンテナ間隔を広くして、全アンテナ数を大幅に減らす「多重配列」としやすい。円形 配列では、規則的な多重配列が困難。 ・ランダム配列は、アンテナ数を最も少なくし得るが、天体像を合成する計算処理がきわめて繁雑 となり、太陽のように複雑な画像を出力するには適していない。 ・Y字型などに較べT字型は縦横に直交しているので、天体像を合成する計算式が格段に簡単にな る。


9. 東西 490m, 南北 220m にわたってアンテナをならべる必要性は。

前述のように、二次元像を得るためには東西南北のT字型配列が最良である。電波干渉計は多数の アンテナを並べそれぞれの受信信号の相関をとることにより、アンテナを並べた範囲の大きさに相当す る1つの巨大なアンテナと同等の分解能を発揮することができる。フレアの発生機構を解明するために 必要な、空間分解能数秒角、高画質の性能を達成するためには 490m x 220m にわたって必要最小限の 数のアンテナを並べることが最も効率がよい。


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