このページでは、今回の観測の結果を紹介します。学術論文は Astrophysical Journal(天体物理学雑誌)に発表されました。
フレアの強さとしては中規模のものでそれほど珍しいものではなかったのですが、 その最大の特徴は、空間的に比較的大きくて、しかも長細い構造がとらえられた ことだったのです。
野辺山電波ヘリオグラフはこのフレアを1秒間に10枚という高速度で撮像した 結果長細い構造の左下から右上に向かって、非常に速い速度で伝わる現象を とらえたのです。次のムービーをみてください。 このムービーではフレーム間の間隔ががわずか0.1秒しかない高速撮影です。 その数フレームにわたって伝わる現象がとらえられているのがわかると思います。 太陽面上でこの伝わる距離は45000km(地球の半径は6000km)もあり、かかって いる時間はわずか0.5秒でした。まばたきを2回するぐらいの時間です。実際 伝わる速度を計測してみると90000km毎秒でこれは光の速度の約3分の1です。 相対性理論によると、光の速度より速くものは進めませんから、これは 究極の速度まであと一歩というほどのスピードなのです。
この現象をわれわれは以下のように解釈しています(下のマンガ参照)。 太陽フレアのエネルギー源は磁場なのですが (詳しくはこちら)、このフレアでは 下のようにふたつの磁力線(ループ状の形をしているので磁気ループと呼ばれます) が接触したことでエネルギー解放が起きたと考えられます。磁力線は N極からS極に向かうという向きを持っていますが、ふたつのループが接触 する箇所では互いの向きが完全には平行ではありません。そういう箇所では 磁力線のエネルギーが解放されます。そのうちの何割かのエネルギーが 電子の加速に使われて、光の速度にまでなったものと考えられます。 電子は電気を帯びていて、磁力線に沿った方向に運動する性質をもっているので 観測されたように細長い構造すなわち磁気ループに沿って伝わっていくのが みえたのだと考えられます。
それ以外にはやや専門的になりますが、以下のような点が新しくわかった ところです。ひとつめは、電子が加速される位置が特定できたことです。 このフレアでは、ふたつの磁力線が相互作用する箇所が、今回の伝播現象の 出発点であることはすでに述べましたが、これは加速機構の解明のためには 実は重要なことを示唆しているのです。研究者によっては、「磁気ループ全体で 加速するのである」という説をとなえる人もいるのですが、今回のフレアに 関する限りその説があてはまらないことは明らかです。ふたつめは、 やや逆説的なのですが、「伝播速度が思ったよりも遅かった」ことです。 少し複雑になるので詳しくは述べませんが、電波放射から予測されている 電子のエネルギーからすると、その速度はほぼ光速(99%以上)とおもわれるのです。 しかし今回の観測では30%ぐらいしかありません。これをわれわれは以下のように 解釈しています。つまり、電子は磁気ループにそってまっすぐ伝わっているのでは なく、実はぐるぐると螺旋状に巻くように回転しながら飛んでいるのである。 したがって本来の速度は光速の99%あっても、みかけ上は遅くみえるのである。 これも、加速機構の解明のためには非常に重要な情報で今後理論による解明が またれるところです。
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