日本時間2012年5月21日朝、九州地方南部、四国地方南部、近畿地方南部、中部地方南部、 関東地方など広範囲で 金環日食が見る事が出来ました。 ここ野辺山太陽電波観測所のある野辺山高原も金環食を見ることができる「中心食帯」に入っており、 野辺山電波ヘリオグラフによる金環日食の観測をしました。
日本時間2012年5月21日午前7時から8時までに野辺山電波ヘリオグラフで観測された画像は、 このページで公開してます。これ以降の最新の太陽画像は、 10分画像 にて公開します。
午前7時4分 | 午前7時14分 | 午前7時24分 | 午前7時34分 食の最大 | 午前7時44分 | 午前7時54分 | 午前8時04分 | movie |
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午前7時4分 | 午前7時14分 | 午前7時24分 | 午前7時34分 食の最大 | 午前7時44分 | 午前7時54分 | 午前8時04分 |
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国立天文台の暦計算室では、 任意の地点での日食の状況の予報を計算するサービスをホームページ上で提供しています (国立天文台・暦計算室 日食各地予報)。 これによると野辺山太陽電波観測所での日食は、以下のように予報されています。
時間 [日本時間] | 高度 [度] | 方位角 [度] | 食分 | コメント |
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2012年5月21日 06:19:20 | 18.9 | 78.3 | 0.0 | 食(部分日食)の始め |
2012年5月21日 07:32:11 | 33.5 | 88.2 | 0.940 | 中心食(金環日食)の始め |
2012年5月21日 07:34:03 | 33.9 | 88.5 | 0.950 | 食の最大 |
2012年5月21日 07:35:54 | 34.3 | 88.7 | 0.940 | 中心食(金環日食)の終り |
2012年5月21日 09:01:04 | 51.4 | 102.9 | 0.0 | 食(部分日食)の終り |
野辺山電波ヘリオグラフは、
東西490m・南北220mのT字型に配置された84台のパラボラアンテナで太陽からの電波を受け、
コンピュータ上で84台で受けた太陽電波の信号を基に太陽の画像を合成する、
太陽専用の開口合成型電波望遠鏡です。
通常は、
太陽の高度が十分高くなり精度の良い観測ができる日本時間午前7時45分から午後3時30分の間、
毎日太陽を観測しています。
野辺山高原では午前6時19分に日食が開始するので日食開始前から観測を始めたいですが、
太陽の高度が低い時に観測すると隣のアンテナが太陽を隠してしまう恐れがあるため、
当日は日本時間午前7時から観測を開始しました。
午前7時の食分は0.544と予想されるため、かなり欠けた状態からの観測になっています。
野辺山電波ヘリオグラフは、太陽から放射される周波数17GHzと34GHzの電波(マイクロ波)を観測していますが、
電波による日食観測の観測には利点と欠点があります。
電波による日食観測の最大の利点は、雲や雨の日でも太陽を観測する事ができる点です。
我々が目で感じる事のできる光(可視光)は地球の大気中の雲により遮られるため、
雲越しに太陽の姿を見る事ができません。
一方、野辺山電波ヘリオグラフが観測する周波数17GHzの電波(マイクロ波)は雲による影響が非常に小さいため、
雲があったとしても電波による太陽の姿を地上から見ることができます(*1)。(下図:左)
この利点が最大に生かされた天文ショーがありました。
2004年6月8日に起きた金星の太陽面通過です。
この日は1日中雨が降り続き(下図:中央)、
日本国内のほとんどでこの珍しい天体ショーを普通の(可視光の)望遠鏡で観測する事ができませんでした。
しかし、野辺山電波ヘリオグラフは雨や雲に負けない利点を生かし、太陽の前を通過する金星の姿を観測する事に成功しました。
2004年6月8日の野辺山太陽電波観測所 | 電波で見た金星の太陽面通過 左下に見える黒い点が金星の影 |
野辺山電波ヘリオグラフは、
前述のように多数のアンテナで受けた信号をコンピュータの中で計算し画像を作る、
開口合成型の電波望遠鏡です。本来ならば直径490mのパラボラアンテナで得られる性能を、
様々な計算上の仮定やテクニックを利用しながらコンピュータで信号を解析・計算することにより、
直径80cmの小さなパラボラアンテナ84台で実現しています。
野辺山電波ヘリオグラフで太陽像を合成する上で大きな仮定の一つは「太陽は丸い。」という事です。
通常であれば電波でみる太陽の形が丸から大きく外れる事はありませんが、
日食時にこの仮定は正しくなくなります。
2009年7月22日に奄美大島北部、トカラ列島、屋久島、種子島南部などで見る事ができた皆既日食時には、
野辺山でも面積にして太陽全体の7割が月に隠れる、食が深い部分日食が観測されました。
この時の野辺山電波ヘリオグラフで観測された部分食のムービーを以下のリンクで見る事ができます。
このムービーで見て取れるように、
日食が進むと太陽以外の場所に波打った構造や円など、あるはずの無い偽の構造が表れ、
弧であるべき太陽や月の影の縁がデコボコになってしまっています。
これが「太陽は丸い。」という仮定をしている事により発生した問題です。
この2009年の部分日食より食が深い今回の金環日食においては、
通常使っている像合成プログラムを使っている限り、
上記のリンクで見れるようなノイズの多い画像すら合成できないと考えています。
今回の我々は、金環日食の観測において通常の計算プログラムを利用する事をあきらめ、
「太陽は丸い。」という仮定を外して像を合成するプログラムを整備しました。
仮定を外した事により、日食が起こっていない太陽画像では通常の像合成プログラムの結果より画質が悪く、
仮定をした時の日食画像よりは弱いですが偽の構造が現れてしまいます(下図)。
しかし、食が深い場合でも画像合成が成功する確率が高いと考えられるため、
当日はこのプログラムを利用して金環日食の観測を行いました。
通常のプログラムで 作成した太陽画像 2009年7月22日13:00JST |
金環日食用プログラムで 作成した太陽画像 2009年7月22日13:00JST |
通常のプログラムで 作成した部分日食画像 2009年7月22日11:10JST |
金環日食用プログラムで 作成した部分日食画像 2009年7月22日11:10JST |
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2012年5月31日更新
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