2012年5月31日

野辺山電波ヘリオグラフが明らかにした太陽のグローバルな活動状況

概要

NASA及び野辺山太陽電波観測所の研究者を中心とした研究チームは、野辺山電波ヘリオグラフによる電波画像とキットピーク国立天文台(米国)などによる太陽磁場画像等を用いて、過去20年間にわたる太陽のグローバルな活動(太陽の黒点の活動だけでなく、極域の活動を含めた太陽全体の活動)を追跡しました。その結果、この20年間で太陽全体の活動が次第に低下してきていることを明らかにしました。また、現在、北半球が太陽活動の極大期に達している一方で、南半球の太陽活動は極大期を迎えていないことをデータは示しています。つまり、太陽の北半球と南半球で、活動の同期が崩れていることになります。

太陽活動の大幅な低下および北半球と南半球で活動の度合いが大きく異なる状況は、人工衛星や地上での太陽専用大型観測装置が揃ってからは初めてのことです。野辺山電波ヘリオグラフ装置の長期にわたる安定した運用によって得られた高品質かつ均質なデータから導かれた本研究の結果は、これまでの太陽活動に対する我々の理解に疑問を投げかけることになりました。これは太陽物理学の問題であるとともに、太陽活動に依存している惑星間空間や地球上層大気への長期間にわたる影響の問題にもなります。

詳細

黒点数と太陽活動の周期

太陽の比較的低緯度(30度以内)の活動度を表す指標として、黒点数がよく利用されます。黒点数は、ほぼ11年の周期で増減を繰り返し、黒点磁場の極性(N極、S極)の並び方は1周期毎に反転します。周期には番号が付けられ、現在は第24活動周期の上昇期にあたります。第23周期の極小期には太陽表面に黒点の全く見られない日が長く続きました。また、第23活動周期は通常より約2年長かったことが知られています。最近の太陽活動は今までとは異なった状況を示しているのです。

高緯度付近の活動

高緯度の活動も11年の周期を示します。しかし、高緯度では、太陽活動が極小になる時期は黒点数が最大の時期、つまり、低緯度での活動極大期に対応します。極域は太陽の縁に近く、観測するためには高い空間分解能を持つ観測装置が必要です。活動が極小になる時に磁場の極性が反転することが知られていますが、反転の時には磁場が非常に弱くなり、そうでなくても難しい極域の磁場観測がますます難しくなります。そのため、高緯度付近の観測は、ひので衛星による高精度観測によって、つい最近可能となりました。

電波観測

一方、マイクロ波帯の電波で観測すると極域が明るく見え、その明るさが極域の活動度を示すことがわかってきました。八ヶ岳山麓の野辺山高原に設置されている電波ヘリオグラフ(*)は、1992年から20年間周波数17GHzで太陽の全面像を撮像してきました。20年分の電波の明るさの分布を並べたものが(下段)の図です。低緯度帯では黒点を含む活動領域からの強い電波が観測されており、太陽活動の進行とともに赤道方向に移動していくようすが見られます。その形から(電波)蝶形図と呼ばれます。

この図で特徴的なのは極域が非常に明るいことです。しかも明るい時期は、低緯度の暗い時期(太陽活動極小期)に対応しています。これを同時期の磁場分布図(上段)と較べると、極域磁場の強いときに電波も強くなっており、定量的にも相関がよいことが示されました。この電波蝶形図と磁場図から、第22~24太陽活動周期における太陽全面の活動は極域・低緯度帯ともにここ20年間次第に低下していることがわかります。また、2012年3月現在、北極の明るさは極小期(低緯度帯の極大期に対応)を迎えていることも示しています。つまり、北極では太陽活動の11年の周期が保たれています。しかし南半球ではそのような気配はうかがえません。

このように太陽活動の周期が南半球と北半球で太陽活動周期がずれているという状況は、衛星や地上での太陽専用大型装置が揃ってからは初めての経験です。本研究成果は、これまでの太陽活動に対する我々の理解に疑問を投げかけることになりました。これは太陽物理学の問題であるとともに、太陽活動に依存している惑星間空間や地球上層大気への長期間にわたる影響の問題にもなります。

本研究成果は、アメリカの天体物理学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル」に掲載されています。

(*)「野辺山電波ヘリオグラフ」:国立天文台野辺山太陽電波観測所が運用している太陽電波観測専用の電波干渉計。口径80cmのパラボラアンテナ84基からなり、1992年から20年間、周波数17GHzで太陽の全面像を撮像している。

太陽磁場・電波の強さの分布の時間変化

太陽磁場(上図)・電波(下図)の強さの分布の時間変化。低緯度帯(北緯30度から南緯30度付近の緯度帯。黒点が出現するのは、ほぼこの辺りとなる)が黒点の活動を表し、高緯度帯(北緯60度から北緯90度付近及び南緯60度から南緯90度付近の緯度帯)が極域の活動を表している。低緯度帯で観測されている強い磁場・電波が、太陽活動の進行とともに赤道方向に移動していくようすがわかる。その形から、これらの図は蝶形図と呼ばれる。

上図は、キットピーク国立天文台(米国)他のデータから作成された太陽面磁場の20年間の変動(磁場蝶形図)。縦軸は太陽面緯度、横軸は年、黄色がN極、青色がS極。

下図は、野辺山電波ヘリオグラフによる電波画像から合成された電波の強さの20年間の変動(電波蝶形図)。座標軸は上図(磁場蝶形図)のものと同じ。電波の強さを濃淡と等高線で示したものである。南北の極域が明るく、上図(磁場蝶形図)の磁場の強さとよい相関を示している。

両図において、点線は低緯度帯における黒点の活動が極小となっている時期を示している。低緯度帯の活動が低調な時期には、高緯度帯の活動が活発になるが、下図において、点線で示している低緯度帯の活動が極小となっている1996年と2008年で高緯度帯の明るさを比較すると、2008年のほうが1996年に比べて暗くなっていることがわかる。