2012年9月19日公開
太陽と惑星間空間の活動の関係
研究の概要
太陽を取り巻く惑星間空間は太陽から吹き出す太陽風で満たされており、その構造は太陽風によって決まります。太陽面全体の活動状況は、野辺山太陽電波観測所の電波ヘリオグラフ装置によって長期間観測されています。それによると、20年間に亘って太陽全面の活動が弱まりつつあり、また各部(北半球、南半球、高緯度、低緯度)の間の活動の同期が失われつつあることがわかってきました。一方、太陽風の速度は、名古屋大学太陽地球環境研究所が行っている惑星間空間シンチレーション法によって長期間観測されてきています。この方法では全天の太陽風速度データが得られます。これらふたつの長期間データを比較することにより、太陽の高緯度の活動と惑星間空間の活動が大きく関係していることがわかってきました。
資料
太陽電波観測と電波蝶形図の合成
国立天文台野辺山太陽電波観測所では、1992年より電波ヘリオグラフ装置(写真1)を用いて太陽の電波撮像観測を継続しています。電波ヘリオグラフ装置は、口径80cmのパラボラアンテナを84台を、東西490m、南北220mにわたって配置した電波望遠鏡で、周波数17GHzで太陽全面の電波強度の分布を観測することができます。通常1秒間に1枚の画像が一日8時間連続して得られますが、そのうち1日1枚の画像約1ヶ月分から、太陽の自転を利用して展開図を合成し、さらにそれを経度方向に平均することによって、約17年分のデータから一枚の電波蝶形図(図1)を合成しました。図1は横軸が年、縦軸が太陽面の緯度、カラーが電波の明るさ(強さ)を表しています。17年間に限ったのは太陽風と太陽電波の同時観測が行われた期間によります。
太陽風観測と太陽風蝶形図の合成
名古屋大学太陽地球環境研究所(旧空電研究所)では1970年代より、コンパクトな電波天体の強度変動(シンチレーション)を3~4地点で同時に観測することにより、惑星間空間を吹いている太陽風の速度を観測しています(写真2)。太陽風中の密度のゆらぎが太陽風に乗って電波天体の視線を横切ることによって電波天体の強度ゆらぎをひきおこしますので、これを地上の複数点で観測し、時間的なずれを求めることによって速度がわかります。天空に散らばる多くの電波天体を利用することにより、地上において全天の太陽風速度の分布を得ることができる非常にユニークな装置です。観測された速度の分布から約1ヶ月毎に惑星間空間の展開図を合成し、さらにそれらを経度方向に平均して緯度分布とし、それらを並べて長期変化を示したものが太陽風蝶形図(図2)です。電波蝶形図と同じ座標で、カラーは太陽風速度を示します。
太陽と惑星間空間の活動の関係(電波蝶形図と太陽風蝶形図から読み取れること)
電波蝶形図(図1)の特徴は極域(高緯度)が明るいことです。しかも明るい時期は黒点(低緯度)の活発な時期と逆相関を示します。高緯度が活発な時期は黒点のほとんどない活動極小期で、逆に極が暗くなる時は黒点活動が極大の時期です。高緯度と低緯度を併せた太陽全面の(グローバルな)活動は観測を開始した20年前から次第に低下しています。また、南半球と北半球の活動の同期、南半球における低緯度と高緯度の活動の同期がくずれてきています。これらの結果は、今年5月31日に国立天文台として記者会見を行ってお知らせしています。(野辺山電波ヘリオグラフが明らかにした太陽のグローバルな活動状況)
一方、太陽風蝶形図(図2)は今回の研究において初めて作成したもので、惑星間空間全体の太陽風速度分布の長期に亘る変化を一目でとらえることができます。これによると、高速風(秒速700km以上)が高緯度から中緯度に広がっていることがわかります。高緯度で高速風が消えるのは黒点活動の最盛期で、高緯度の電波強度が最低になったときです。北半球では電波の明るさと太陽風速度の関係は非常にはっきりしており、活動周期ごとにそれを繰り返しています。しかし南半球では北半球にみられるようなはっきりした関係がみられません。活動周期毎に異なった関係を示します。2000年以降の太陽風速度分布は不規則な構造があり、電波観測から推測されるグローバルな活動周期活動の乱れに関係していると推測されます。
以上の2種類の観測データを併せることにより、太陽と惑星間空間の構造の関係をみることができました。電波で明瞭に検出できる高緯度の活動と高速太陽風がよい相関を示すことがわかり、今後もこれらの観測を継続するとともにそれらの間の関係の相関だけでなく、これらを支配している物理機構についての研究を進める必要があります。
地球への影響は
地球は惑星間空間の低緯度に位置しており、図2からわかるように太陽面の高緯度の活動に依存している高速太陽風からは直接的には影響を受けていません。しかし、太陽風の風圧によって決まる惑星間空間全体(太陽圏)からは間接的影響を受けます。たとえば太陽風によって外に掃き出される太陽圏外からの銀河宇宙線の量の増減が地球の大気に影響を与える可能性があります。しかし、これが直接地球の温暖化や寒冷化と結びつくかどうかについては、地球の気候の研究との共同研究が必要です。
今後の観測と研究
20年間の太陽電波観測によると、太陽全面にわたる活動が低下しているとともに、活動周期の同期がくずれつつあることがわかってきました。同時期の太陽風速度の観測によると、太陽風速度の大きな減速の兆候はみられませんが、不規則な年変動を示すようになっています。太陽が原因で太陽圏全体の活動の同期が狂ってきています。このような状況であるために、太陽活動および惑星間空間の長期間にわたる観測は今後ますます重要となってくるとともに、これらの関係の研究を継続し、地球大気への影響の検討することも必要です。
このような研究ができたのは、太陽電波観測および太陽風観測が長期間継続されてきたこと、およびそれぞれのデータが長期に亘って均質でよく較正されていることによります。これらの観測を支えてきた多くの方々に感謝いたします。
なお、この研究は名古屋大学太陽地球環境研究所の平成23年度共同研究「グローバルな太陽磁場活動と惑星間空間構造変化の関係」として実施されたものです。